フィヴェの日記

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読書感想|「この川のむこうに君がいる」-20230903読了

 今回は「この川のむこうに君がいる」の感想を書きます。

 

・基本情報

題名:この川のむこうに君がいる

著:濱野はまの京子きょうこ 発行:2018年11月 発行所:理論社

 

 

・簡単なあらすじ

 新たな場所で新生活を始めた岩井いわい梨乃りのには誰にも触れられたくない秘密があった。真実を伏せて生活を続ける岩井梨乃には悩みが尽きない・・・・・・。

 

 

・感想

 この本を一言で表すなら、「考えさせる本」が適切だと思います。なぜなら、この本の主人公の悩みは東日本大震災からきているからです。あまりに大きい悩みの原因は話の最後まで解決することはありません。決して解決しようのない問題の原因に、読んでいて胸の詰まる思いでした。もちろん、最後には少し前向きな気持ちにはなりますが、問題の解決には至っていません。しかし、主人公にとっては前向きに考えられるようになったこと自体が大事なことです。

 また、主人公の考えていることも「考えさせる本」と言える理由の一つになっています。主人公はよく考える人で、繊細な人ともいえます。言葉を発した人は何げなく言ったつもりだと分かっていても、「別の捉え方もできる」と落ち込んでしまう場面が印象的です。主人公自身でも、秘密を守るためにあえて発した言葉に自分で傷ついてしまうこともあり、言葉は難しいと痛感しました。その人は真に相手のことを思いやっていっているはずの言葉でも、無神経な言葉になってしまうシーンがあり、儘ならないものだと思いました。

 

 この本のタイトルはダブルミーニングになっていると思います。題名の中の「川」を三途の川と捉えることもできますし、純粋に河川と捉えることもできます。この本の中では、前者の意味なら暗く、後者の意味ならポジティブになると思います。

 前者の意味では、三途の川の向こうにいる人を思うことで暗い意味になるのではありません。この本の中では、すでに亡くなってしまった人は過ぎ去ったこととして扱われているように感じました。物語の舞台では震災から三年が経過しているので、哀悼の想いも震災直後よりも折り合いをつけなければいけないことになっているのだと思います。それは、悲しみが薄れたというよりも、事実を受け入れることができるようになったということなのではないのか、と思います。

 

  全体的に声を上げて笑うような面白さは、なかったように思えます。炭酸水よりもコーヒーのような感じで、味わい深い作品だと思います。それは、震災をテーマにしているからというよりも、主人公の気質によるものだと思います。先述しましたが、主人公は物事を深く考える人であることが、この本に深みを出していると思います。