フィヴェの日記

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読書感想|「教室に並んだ背表紙」-20230902読了

 今回は「教室に並んだ背表紙」の感想を書きます。

 

・基本情報

題名:教室に並んだ背表紙

著:相沢あいざわ沙呼さこ 発行:2020年12月10日 発行所:集英社

 

 

・簡単なあらすじ

 しおり先生は中学校の図書室の司書さん。本が好きな人にもあまり好きじゃない人にも本をおすすめする、ちょっと変わった明るい先生。しおり先生がいるあたたかい図書室は今日も誰かにとっての避難場所。

 

・感想

 この本は、六篇の短編小説から成る連作短編集です。舞台は中学校です。全篇を通して同じ学校司書の先生が出てきます。

 どの話も中学生が主人公で一人称視点の話なので、いわゆる若者の言葉遣いが多く使われています。まるで主人公が喋っているかのような語り口なのに、口語に特有の読みにくさがなく、すごいと思いました。

 どの篇も一見すると違う場所が舞台の話なように感じられます。しかし、登場人物に関係があり、意外な組み合わせの関係性が見れて面白かったです。

 

 第一篇「その背に指を伸ばして」の主人公はプライドが高く、物事に対して斜に構えています。中学生ならではの大人ぶりたい感じに少し共感性羞恥が湧き上がりました。この篇の主人公は、主人公なのに主人公らしさがないように思いました。学校を舞台とした話ではよくありがちな展開の傍観者のような立ち位置だと感じました。話の最後では明確な描写はありませんが、主人公が確かに一歩を踏み出した印象を受けました。

 

 第二篇「しおりを滲ませて、めくる先」では、読み初めて「一篇目とは違う場所なのかな」と思いました。なぜかというと一篇目と図書室の描写が違ったからです。この本の題名と舞台から、「図書室は物語の核となる部分だから変わらないだろう」と思っていたので、あまりに違う描写に戸惑いました。

 主人公と学校司書の先生が図書室の片付けを一緒に行う中で、徐々に打ち解けるシーンは図書室の片付き具合と心の距離に共通点を作っているように感じました。野良猫のように警戒心が強い主人公が、学校司書の先生に絆されていく場面は心が温まりました。

 一篇目で出てきた台詞と同じ台詞が出てきて一篇目で話していた内容について、疑問に思っていたことが解決されてスッキリとしました。

 この篇の主人公は私にとって共感できる部分が多かったので、主人公に柔らかな未来が訪れていて、嬉しく思いました。

 

 第三篇「やさしいわたしの綴りかた」では、ここまでの主人公とは大きな相違点があります。それは、ここまでの主人公は皆、陽キャ陰キャという分類では陰キャに分類される主人公だったのに、この篇では陽キャだということです。この本の主人公の中では唯一、陽キャの分類にいる人だと思いました。

 私とは違う点が多い主人公です。しかし、物語の最後では苦手なことに一生懸命に取り組んでいて、応援したくなりました。

 

 第四篇「花布の咲くころ」の主人公は、今だからこその設定の主人公だと思います。現代ならではの嗜好の主人公です。この本の全体を通して、とても現代的で登場人物たちがそこに息づいているように感じられて、感情移入がとてもしやすかったです。

 主人公には他人に秘密にしておきたいと思っていることがあります。それがバレそうになってしまうシーンでは、まるで自分のことのようにドキドキしました。

 この本では中学生が主人公なので、ティーンエンジャーらしい悩みを抱えていることも当然です。主人公がうまく気持ちを伝えることができずに悩む場面があります。そこでは、あまりのもどかしさに胸が苦しくなりました。

 主人公の悩みが肯定されるシーンでは、安堵に泣きそうになりました。温かな雰囲気の図書室が救いとなっていて、私は本が集まる場所が好きなので、嬉しく思いました。

 

 第五篇「煌めきのしずくをかぶせる」では、主人公には主人公にとって重大な悩みがあります。きっと大人から見れば些細なことかもしれない内容でも、彼らにとっては大変悩みもあるのだなと思いました。この篇の結末で主人公は、安心して付き合える友達ができます。悩んでいたシーンを悔しく思いながら見ていたので、自分のことのように嬉しく思いました。

 

 第六篇「教室に並んだ背表紙」では、ここまでの篇の中で出てきたけど、主人公ではなかった人物が主人公になっています。第一篇から第五篇までとはまるで違う印象でした。その人物の心象がわかるだけで、こんなにも印象が変わって見えるのは新しい発見でした。

 主人公が助けられるシーンは思わず涙が出ました。私もこんな風に非常に情熱的に救って欲しいとさえ思いました。

 

 

・調べたこと(下記引用部分は「教室に並んだ背表紙」より引用)

わたしは、花布はなぎれの銀がワンポイントで好きなんだけれどね

 154ページ4行目より引用。

 「花布」は本の背表紙の内側に、色糸を交互に織ったものを縫い付け、本を丈夫にすることと装飾することが意味だったが、現在は装飾として模造されている。

ひょっとしたら現代の物語の功罪かもしれないね。

 250ページ16行目より引用。

 「功罪」とは、功績と罪過。良いことと悪いこと。

「栞はね、目印なの。昔の人は、山で迷わないように、木の枝を折って目印にしていたのね。それで、枝を折るって書いて枝折って呼んでいて、本の栞の語源はそこから来ているんですって」

 263ページ4行目より引用。

 「栞の語源」は、木の枝を折って帰りの目印にすることの「枝折しおる」という動詞から。「枝折しおる」は当て字で、本来の意味は「いためる」という漢字から。